Violin弾きのお美っちゃん~39

似て非なる……


ハワイでは靴を脱いで家の中に入る。この習慣は東洋系だけでなく、ローカルの大方の家庭でも同じでハワイ全般に定着している。

布団もハワイにだけ普及しているのかと思っていたが、10数年前にカンザスの友人の家に泊まった時、「フトンを買っておいたのよ」と聞いて驚いたことを思い出す。「Futon」はアメリカ本土の、日本人をめったに見かけることのない小さな町で、英語になっていた。

ハワイという土地柄は、他の州から来たアメリカ人でも、最初は戸惑うことがあるらしい。

彼らは自分なりのハワイへの適応法を考え、精力的に行動する。そしていろいろな戸惑いを真剣に話して、最後に、「これからの人生をハワイで過ごすことに決めたんだ。ハワイが好きなんだ!」と締めくくるのだが、戸惑いなどはものともしない熱の入れ様だ。

アメリカ本土からひとっ飛びしてハワイへ来たアメリカ人の中には、日本に愛着を覚える人も多い。いつの日にかもうひとっ飛びして、日本ヘも行ってみたいと考えている。夢ではない。

「日本的なもの」と一口に言ってもいろいろあるが、日本に住んでいて日本的なものと、ハワイでの日本的なものではちょっと違う。その「ちょっと違う」が、全然違っていたりするのもおもしろい。逆に、ハワイの方が日本的であったりすることもある。

知人のキャリーと私は、家の「間取り」の話をしていた。畳が6枚だから「6畳間」だと説明した。キャリーはテレビの時代劇をよく見ているから、畳や障子がどんな形をしているのかもよく知っている。自分のことを「アメリカ人浪人」と自称しているほどだ。そのキャリーがある日、こう言った。

「私は畳が好きです。大晦日には花火を見たいので祖母の家に行きます。そして、ガレージに畳を12枚敷いてテーブルを広げて、みんなで料理を食べながら花火を見ます」

「そうなの!。12枚もガレージに畳を敷くのは大変ねえ。重いでしょう? 畳屋さんはハワイにあるの? 日本から取り寄せたの? それで普段はどうしてるの、その畳?」

「はい、畳はハワイで買いました。どこでも売っています。畳は重くないです。いつもはたたんで物入れに片付けています」

「あらっ、ハワイには折りたたみの畳があるの?」

「はい、あります。畳は全部、折りたたみ式です」

あっ、そうか! 謎が解けた。畳ではなくて「ござ」のことだった。

彼の方も瞳を大きく開いて驚いた。そして、「私はござの本当の意味を知りませんでした」と言って、中指で額をこんこんこんと3つ叩いて目を細めたのだった。

私も真似て自分のおでこを叩いてみせた。考えてみれば、畳を修理するところでも見ない限り、テレビの時代劇だけでは、畳の厚みや重さがわからないのは無理もないことだった。

やはり知り合いのアリソンに聞いてみた。「畳を見たことがありますか?」「はい、畳を作っているのをテレビで見たことがあります」と答えた。アリソンは日本の言葉と文化を習い始めて1年半になる。日本へはまだ行ったことがない。

そのアリソンに、「狐と狸がどうしてうどんや蕎麦になっているんですか?」と尋ねられた。これは難問だった。油揚げは狐の好物らしいことなど少しだけ説明したが、狸の説はいろいろあるらしいので、煙に巻いておいた。

油揚げは豆腐同様にハワイでもよく食べられている。いなり寿司も売られているが、ハワイのいなり寿司は御飯が油揚げからはみ出すくらいぎゅうぎゅうに詰め込まれている。

「油揚げに味がよく染みていて、御飯は少なめのおいなりさんが好きよ」と私。

「ハワイの人はたくさん食べたいから御飯がいっぱい詰まっているのが好きなのよ」
とアリソン。

相対的にハワイの人は食べる量が多い。暑いので清涼飲料水も多量に飲む。欲しいものが必ずしも身体によいとは限らない、ということを忘れている訳ではないが、「わかっているけど、つい」といった感じで清涼飲料水に手が出る。もちろん、健康によいとされる日本のものも飲んでいる。

「煎茶は飲み過ぎても身体に良い」と夫は言う。だから、ハワイで飲む煎茶は、お茶の香りや味を楽しむというよりは、体内の掃除のつもりで私は飲んでいる。

ポイントは2つ。やや渋めに出すことと、量を多く作ること。従って小さな湯呑み茶碗にではなく、マグカップに入れる。飲み方は日本的ではないが、日本人である私たちが、ハワイの生活で欠かすことの出来ない数少ない「日本的」なものだ。

「日本からのお土産に何がいい」と尋ねられて、「ではお言葉に甘えて、お煎茶を少しばかり」と答えるのは、さて、日本的なのかハワイ的なのか……。

(毎日新聞USA連載)


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