セドリックさんへ

私も患者さんと過ごす中で、喜びを共有したりすることがあります。
例えその場限りの喜びであっても、その瞬間は笑顔になります。
一度そのような気持ちを共有すると、「この人ならわかってくれる」と信頼してもらえるようになります。

以前、100才近い女性で、毎日「もう生きていても意味がない。早く死にたい。」と言っている患者さんがいました。
気持ちはわかります。
家にも帰れず、体は衰えていき、家族や友人は既にこの世を去り、どんなに孤独であることでしょう。
私は毎日彼女の病室をたずね、車椅子でリハビリ室に一緒に行きました。
リハビリ室には顔なじみも多く、明るい若者が多く、みんなで冗談を言っては彼女も笑顔になり、楽しく過ごすことができるのです。

そうして毎日訪ねるうちに、彼女も心を開き、昔のことをたくさん話してくれるようになりました。
幼い頃のこと、若い時仕事をしていたときのこと、家族のこと…
彼女の話を聴いていると、若く生き生きとした彼女の姿を思い描くことができました。
私は彼女の人生について本を書けると思います。それほどたくさん話をしました。

ある時彼女は、ふと思いついたように話し出しました。
昔、彼女が夏の暑い日に外で仕事をしている時に、親切な人が、
「暑くて大変だから、これで飲み物でも買いなさい。」とお金をくれたのだそうです。
それは人生の中でとても小さなエピソードです。
彼女は「あの時、見知らぬ人に感謝したことをもう一度思い出せて良かった。」
ととても喜んでいました。
私はそんな小さなエピソードを思い出し、そのことを未だに感謝している彼女に感動しました。

あの語り合う日々がなければ、彼女は二度と素敵な思い出を思い出すことがなかったかもしれません。
それだけでも意味のあることだったと思います。

This entry was posted in Daily Sketch. Bookmark the permalink.

Leave a comment