大学4年生の時、卒業も間近い頃、私は、マーケティング会社で社長秘書のような仕事をしました。
これは少し奇妙な体験でした。
その会社に入った次の日、社長は会社の鍵を全部私に預けて、半月間、フランスに出張してしまいました。会社には、社員の私一人だけ残されました。
私はまだ社長の顔も覚えていませんでした。それよりも、会社で何をすればいいのか全くわかりませんでした。社長はフランスに着くと電話をかけてきました。それから私は、ファックスで送られてくる社長の指示に従って仕事をしました。
2週間後、社長がフランスから戻って来ました。当然のことながら、私は社長の顔を忘れていました。それで、その週は、社長とあまり話をしませんでした。
次の週になり、社長が、「ちょっと話してもいいですか?」 と、私に話しかけてきました。 私が、「はい」 と答えると、社長は、4時間も5時間もおしゃべりをしました。 前の社員さんが辞めて私が会社に入るまでの約半年間、社長は一人で仕事をしていたので、誰かとおしゃべりがしたかったのです。
それから、社長と私は、前と後ろに机を並べて仕事をしました。仕事中、私は、時々、コンピュータゲームをして遊んでいました。 すると社長は、後ろから覗き込んで、「あっ、ゲームしてるの?」 と言いました。 こうして3ヵ月間が過ぎました。
辞める前、私はインターネットで新入社員を募集しました。 社長さんはメールで送らてきた履歴書と顔写真を見て、「この人はまじめそうだね。 この人はきれいだね」 などとおしゃべりをしました。 私が採用された時と違って、この時、社長はたっぷりと時間があったからです。 こうして私は、新入社員募集から、面接、採用までお手伝いをしました。 結局、私達は、「まじめそうな人」 を選んで採用しました。
そして私は大学を卒業し、アメリカ留学へと旅立ったのです。