新たな局面を迎えた裁判 その行方を探る
アメリカ合衆国憲法に違反 第九連邦上告巡回裁が判決
カメハメハ・スクールへの入学基準で、ハワイ原住民の血を持たないものを認めないのは、人種差別を禁止しているアメリカ合衆国憲法に違反している-第九連邦上告巡回裁判所8月2日、サンフランシスコの第九連邦上告巡回裁判所の判決は、ハワイアンのみならず、ハワイに住む全ての人々にとっては、白人社会の、何事にも黒白をつける倫理、法体系の津波が押し寄せてきたかの印象を受けた。
ニュースは 「ハワイ王朝を崩壊させ、土地を取り上げ、ハワイアン文化を拒否した白人アメリカが、ハワイアンにとっては、最後に残されたよりどころをも取り上げようとしている」 と反乱前の混沌と興奮状態とでも思わせる反発の声を起こさせた。
しかし、ハワイ大学のハワイアン研究センターのリリカラ・カメエレイヒバ所長が、ハワイアンに対する抑圧政策が続いているとし、「白人優越主義者がハワイアンからの搾取を、また、一歩前進させた」「白人はハワイアンを好きな良い白人とハワイアンを卑下する悪人のどちらか」 と言い切り、明らかな人種対立という図式に立って判決を批判したことは、しかし、ハワイの良識派からの猛反発を受ける結果となった。
ハワイアンにとっては ーカメハメハスクールー 最後に残されたよりどころ
ハワイアン最大のデモ 15,000人参加
8月3日(水曜日) カメハメハ・スクールの理事会では、関係者に電子メールで連絡をとり、各地でのデモ行進参加を要請した。オアフ島はイオラニ・パレスに、マウイはマウイ・コミュニティー・カレッジ、ハワイ島は東のカメハマハ・スクールと西のハラハラワイからカイルアを通ってアフ・エナ・ヘエアウ(古代寺院跡)まで、カワイ島はキング・カウムアリイ小学校、モロカイ島ではクラナ・オイビ・ヘエアウに集まること。そして、8月6日(土曜日)、オアフの1万人から1万2千人、ハワイ島の千人あまり、人口の少ないカワイ島でも500人がマーチに参加し、アドバータイザー紙でもハワイアンのデモ行進としては、歴史上最大規模のデモになったと形容していた。
ことの始まり
ハワイアンのみならず、ハワイに住む人に少なからず「ショック」を与えた判決は、2003年6月26日に始まった。
2003年6月26日-カメハメハ・スクールに転校が認められていたカワイ島に住む12歳の少年、ブレイドン・モヒカ-カミングス君は学校に提出していた書類で、父親のメルビン・カミングスがハワイアンの地を引く者であると書き込んでいる。しかし、学校側の調査によると、児童の母親カレナ・サントスは、メルビン・カミングスに養女として養子縁組した白人で、息子のブレイドン君はハワイアンの血を全くもっていないことが判明したという。そこで、一時、オアフ島のカメハメハ・スクールへの入学を認めたものの、その後、入学できない旨の通知を出した。カレナ・サントスさんが、カメハメハ・スクールへの入学に胸を躍らせていた息子の入学を認めるように求めて、カメハメハ・スクールを相手取りハワイの連邦法廷に告訴状を提出したのは、2003年6月26日だった。
2003年8月21日 デイビッド・エズラ連邦法廷判事は、児童の将来を損なうことがないようにと、判決を下すまで、一時的にカメハメハ・スクールへの通学を命令した。
2003年11月17日 エズラ判事は、「カメハメハの入学基準はバーニス・パウアヒ・ビショップ王女の遺言に基づき、しかも連邦議会がカメハメハ・スクールの特殊事情を認める決定を下してきていることなどを理由に、ハワイアンの血を条件としたカメハメハ・スクールの入学条件は憲法違反にはあたらない」 とカメハメハ・スクール勝訴の判決を下した。判決を不服とした原告側ではサンフランシスコの第九巡回上告連邦法廷に上告した。
2004年11月4日 第九巡回上告連邦法廷の3人の判事がホノルルで原告と被告双方からの主張を聴取。
2005年8月2日 第九巡回上告連邦法廷では前判決を破棄、被告側の主張を全面的に認める判決を発表する。
第九巡回上告連邦法廷の判決骨子
原告:ジョン・ドウ(未成年のため匿名)ジョン・ドウの母親、ジェーン・ドウ
被告:カメハメハ・スクール並びにバーニス・パウアヒ・ビショップ財団とその管財人
本文 : カメハメハ王の直系最後となったバーニス・パウアヒ・ビショップ王女の遺言に則り、一八八七年以来教育を続けてきたカメハメハ・スクールはハワイ原住民の子弟への教育を優先してきた。その結果、カメハメハ・スクールがハワイアンのみの教育をしてきたことは、それが私立であり、宗教的な制限もなく、連邦政府からの資金の供給を受けずにいても、アメリカの法律で既定されている市民権法に違反することになるのか否かを問うものであることは、原告、被告、法廷共に認めるところである。
原告、ジョン・ドウは、カメハメハ・スクール並びにバーニス・パウアヒ・ビショップ財団とその管財人に対しての連邦地方裁判所の前判決を不服として当法廷に上告し、カメハメハ・スクールがジョン・ドウの入学を認めないのは、ジョン・ドウの人種的な背景が理由であり、これは、アメリカ合衆国憲法で人種差別を禁止している第42条に違反するものであると主張している。以下にあげる理由により、当法廷はドウの主張を認め、カメハメハ・スクールが特定の人種以外の人種の入学を制限することは、第42条に違反するものであると判断する。依って、カメハメハ・スクールを支持した連邦地方裁判所の前判決を破棄する。
判決理由
人種的な入学制限はバーニス・パウアヒ・ビショップ王女の遺言ではなく、夫のチャールス・ビショップの意見
カメハメハ・スクールはバーニス・パウアヒ・ビショップ王女の遺言で「ハワイアンの子弟」の教育が義務付けられていると主張しているものの、バーニス・パウアヒ・ビショップ王女の遺言で「親のない子供、貧困家庭の子弟、ハワイアンの血を持つ子供たちを優先させる教育」としている個所は入学基準ではなく、バーニス・パウアヒ・ビショップ基金からの収入の一部を使うことを定めているものである。
ハワイアンの入学を優先させるとしたのは、バーニス・パウアヒ・ビショップ王女の夫であるチャールス・リード・ビショップが妻であるバーニス・パウアヒ・ビショップ王女の死後、基金の管財人となり「バーニス・パウアヒ・ビショップ王女の意向である」と主張したもので、バーニス・パウアヒ・ビショップ王女の遺言では、ハワイアンの子弟を優先させるとは、いっていない。
ジョン・ドウはカメハメハ・スクールへの入学を二度にわたって申請したが、二度とも、成績の上では入学基準に達していることが認められたものの、ハワイアンの血を持たないことが理由で入学が許可されなかった。入学拒否の理由は、人種的背景しかなく、これは、アメリカ合衆国憲法の第42条に違反するとしてのジョン・ドウの告訴に対して、連邦地方裁判所では、「過去において差別を受けた人種的背景を持つものが被った不利益を回復することを目的とした人種優先策はアファーマティブ・アクションとして認められている」ことを理由にカメハメハ・スクールのハワイアン優先入学方針を認める決定をくだした。
カメハメハ・スクールは、本法廷において、入学許可の条件に人種的背景があることを認めた上で、その正当性を 「集会の自由から発生する例外」、「アメリカ合衆国と居留地のインディアンとの人種的差別の例外」、「連邦政府からの資金援助を受けている学校の人種差別問題から派生する例外」 には言及せず、あくまで、政府からの資金援助を全く受けていない私立学校で遺言に基づいて特定の人種を優先するのは人種差別にはあたらないとしている。
その主張を連邦地方裁判所も認めたものであるが、当法廷としては、カメハメハ・スクール側が「人種を特定した入学基準」を正当化する理由として、法律上の例外を取り上げていないことから、当法廷ではその問題を考慮せず、カメハメハ・スクールが主張する 「政府からの資金援助を全く受けていない私立学校で遺言に基づいて特定の人種を優先するのは人種差別にはあたらない」 という点を考察する。
過去の同様な問題を取り扱った裁判を見ると、連邦政府から資金的な援助を受けていなかった私立学校が黒人の入学を認めていなかった二つの学校に対しての人種差別裁判があり、1990年、憲法違反であるとの判決が下されている。カメハメハ・スクールは少数民族保護の目的であると主張に対しては、白人に対する差別も人種差別であると判決した例としては、1976年、サンタ・フェ鉄道会社で横領事件が起きたとき、黒人の従業員は解雇されなかったのに、二人の白人従業員が解雇されたことがあり、裁判所では人種差別であるとの判決を下している。
実際、人種差別であるとして告訴された被告側が憲法違反ではないことを裏付けるためには、
1)人種が要素になっている(雇用、入学などの)決定が政府の方針・政策・法律のために必要であること、
又は、2)告訴した原告が選に漏れたのは人種以外の理由があることの何れかを立証する必要がある。
カメハメハ・スクールは1)を満足させるために、ハワイにおけるハワイアンが社会的、経済的、教育上の底辺に置かれていることを指摘し、地位向上のために、ハワイアンにターゲットを絞った入学基準が必要であると主張している。
しかし、或る人種が過去の差別のために現在おかれている地位の低さを改善するために特例として法制化された人種優遇政策-いわゆるアファーマティブ・アクション-に関しては、アメリカ最高裁判所でも、「会社全体、学校全体をその人種だけで構成することは認められない」という判決を下しており、カメハメハ・スクール全体を或る特定の人種で構成することは、「アファーマティブ・アクション」 としての例外にはなりえない。
カメハメハ・スクールの 「連邦政府がアメリカ・インディアンに対して人種差別問題に関しては特例を設けているように、ハワイアンに対しても特例が認められるべきだ」 との主張に対しては、「アメリカ・インディアンは自治が認められている政治団体としての特異性が考慮されているもので、人種としての特例ではないのに対して、ハワイアンは、あくまでも人種として特例を主張しているのは根本的な立場が全く異なる」。
当法廷は、バーニス・パウアヒ・ビショップ王女の遺言を検討したが、そのなかで 「カメハメハ・スクールのハワイアンのみの入学」 を条件としている言葉は発見できなかった。
上記の理由により、当法廷は連邦地方裁判所の前判決を破棄する。
(つづく)