時計は時計でも……

ハワイは本格的な夏になってきた。といっても、夏場のホノルルの平均気温はだいたい26度くらいだから「にっぽんのうだる夏」とはずいぶん違う。太陽の日差しは強烈でも、からっとした風が吹き抜ける。
夏の楽しみはスイカ。今年、日本のテレビニュースで、初めて四角いスイカを見た。スイカは贈答品として同じサイズの箱に納められていた。冷蔵庫に入りやすいようにと改良されたそうだが、切ってお皿に乗せられるすいかはどんな格好なのだろう。
私は大柄のなみなみ模様がついた、長丸いスイカを好んで食べている。甘い水分がたっぷりあり、おまけに黒い種もいっぱいある。このスイカは一見冷蔵庫に納まりにくいように見えるが、意外にも、丸ごとでも半分に切って入れてもおとなしく納まる。
ビーチに遊びに行かなくても、涼風の吹く木々の下を歩かなくても、どこか日陰でこの胴長スイカを食べるだけで、元気いっぱい、しあわせになれる。ハワイの日陰の快適さを経験すると、日本の夏は過酷なものだと認識する。
この春、イラク戦争の影響で一時日本人観光客が減っていたが、夏になってまた増えてきた。新型肺炎の患者も出ていないのでハワイの夏は元気がいい。
ホノルルの玄関口では、スコットが飛行機の発着時刻の掲示板システムを作っている。勤務時間の大半をコンピューターと向き合っている彼は、休憩時間に空港内を歩いて、日本人観光客と日本語での小さな会話を楽しんでいる。
ワイキキビーチに面したホテルに勤務するレアトリスも、ヨットのキャプテンであるイアンも、レストランで働くデイビッドも、親しみと品位のあるおもてなしをしようと努めている。
イアンのヨットには、主に日本人と米本土からの観光客が乗船する。日本人観光客は午前中に乗るのを好み、アメリカ人は夜を好むそうだ。「たぶん日本人は夜は寝て、アメリカ人は夜お酒を飲んでいるから朝は寝ているんだろう」と、イアンは言う。
そうかもしれない。それに加えて私が想像するに、日本人観光客は夜、ショッピングをしているのだろうと思う。楽しみ方は違っていても、安全なハワイであり続けて欲しいと誰もが望んでいる。
ホノルル空港では、01年9月11日の同時テロ事件以来、警備が非常に厳しくなっている。事件後、爆弾など武器の持ち込みがないかを検査する大きな機械を100万ドルで購入したそうだが、更に最近、1台3万ドルの機械を100台近く買ったそうだ。
ジェレミーはホノルル空港で、1日中その機械を睨んでいる。「きょうは荷物から麻薬を見つけた」と言った。そして、緊張の仕事が終わるとビーチへ行く。陽に焼けたチョコレート色の肌は日ごとに深くなっていく。
彼はあらゆる海の楽しみ方を知っている。ボディーボードのコンテストではチャンピオンになった。釣りもする。海と友達なのだ。ハワイの海男なのだ。といっても海の荒くれ男ではない。非常に心優しく穏やかで几帳面な性格をしている。約束も守る。
海の好きな地元の人たちは、仕事のない時は長いサーフボードなど、マリンスポーツの備品をトラックの荷台に積み込み、あちらのビーチこちらのビーチにと遊びに行く。
彼らは、その日その時のお天気や、波の具合に誘われて出かけるものだから、人との約束を忘れることがある。12時。来るはずの人が来ない。電話が鳴る。
「もしもし、ミチコ、ごめんなさい。12時の約束を忘れていました。今、ノースショアでサーフィンをしているんです」と、申し訳なさそう。
「仕方がないわね。でも、少なくとも約束の時間を思い出してくれてありがとう」
「そうなんだ。12時きっかりにビーチで思い出したんだよ」と、少し得意そう。
ハワイの人たちは人との約束を軽んじているわけではない。むしろ大切に考えている。約束を破ると信用を失うし、根が横着ではないから非常に反省する。同時に、太陽や雲の動き、潮の干満や魚との対話も重んじている。2つの時計を持っているようだ。
厳しい人間社会の中で真剣に働く彼らは、自然が生み出す鼓動も無視をしていない。それは、「音楽のテンポを刻むメトロノームが絶対だ」とか、「ピッチの『A』は、440ヘルツか442ヘルツか」、などとは言っていられないような独特なものだ。
まさに生きた音楽がそうであるように、ハワイの夏は美しく魅力的に生きている。
日陰でスイカを食べている私にさえも、有り余る自然のすばらしさで潤ってくる。
(毎日新聞USA連載)
