Violin弾きのお美っちゃん~24

晴れて元旦だが……

2003年元旦。アメリカで迎える16回目の正月。そのうち15回がホノルルだ。

一度だけ、雪のシカゴで元日を過ごした。アーカンソー、オクラホマ、カンザス、ミズーリを回って最後にシカゴに寄った。そこで元旦を迎えたのだが、刺すような冷たい風に当たりながら、ビルの谷間を歩いたのを記憶している。

いずれにしろ日本を離れてまる15年の光陰の速さに、今、改めて驚いている。

「元旦だから改まった、新たな気持ちで始まる」という緊張感ではないが、ずうーっと継続的に緊張した15年間が続いているように感じる。それは耐え難い緊張感ではないのだが……。

見えない時間の中で止まっているように見えて、実は熟成し成長している何かが見えるとでも言えばいいのだろうか。15歳分の「年」をとったわけだが「あーあ、歳はとりたくないなあ」と感じたことがない。不思議なことに私の心は老け込まない。

ハワイには人を若返らせる何かがあるようだ。それは気候や自然の動植物から受けるものだけでなく、15年間で出会ってきた人々との関係によるところが大きい。知り合いは一人もいなかったハワイ。そして、人に恵まれた15年間の歳月に感謝をして、また新年をホノルルで迎えた。

大晦日の夜はあちこちから爆竹の音が鳴り始め、それとともに人々の絶叫も聞こえてくる。花火も上がる。花火の燃えかすが屋根に落ちて家が燃え上がり、消防自動車が走る。花火で火傷を負った患者さんを乗せて救急車も急ぎ、お医者さんは病院に呼び出される。

被害はペットにも及ぶ。気の弱いペットを持つ飼い主は、事前に獣医さんから精神安定剤を与えてもらう。「バチバチバチバチッ」という連続音と胸の悪くなるような煙は島中を包んでいく。花火と爆竹の嵐は12時に最高潮になり、空から響いてくる。

爆竹の余韻は午前1時頃やっとおさまり、私は新年を迎えた喜びもなくようやく眠りにつく。元旦の朝、爆竹のゴミの山は清掃され「世界の観光地ホノルル」は、きれいな装いを取り戻す。やがてニュースでは「花火で死亡者が出た。負傷者が何人出た。爆竹の音でペットが恐怖のあまり逃げ出した。その数は何匹」などと報道される。毎年そうだ。

数年前の大晦日の晩のことだった。親しくしていたユーエンさん一家に、自宅での花火大会と夕食に招待された。私と夫と愛犬ドルチェは、ホノルルの中心部から西に車で40分くらいの所にあるカポレイに出かけて行った。オアフ島の空には花火と爆竹の煙が広がり始めていた。

ユーエンさんの家に着くと、住宅地全域が煙と火薬の匂いで充満していた。私はそこで逃げ帰ろうかと思ったが、せっかくのご馳走も待っているからと思い直した。家の前には打ち上げ花火台が道路の中央に建てられ、ガレージには花火の箱が何箱も置かれていた。それだけで何百ドルだということだった。

歓迎されて家の中に入ると中国料理がずらりとテーブルに並んでいた。そして「大イベント」は始まった。それは家庭での花火遊びという生ぬるいものではなく、大仕掛け花火だった。私はひたすらドルチェの耳を押さえ、ご馳走を食べ、たまに誘われてほんの少しだけ表に出ては「きれいね!」と賛辞を述べ、すぐにまた家の中に飛び込んだ。

花火は2時間たっても3時間たっても終わりそうになかった。家の中に逃げ込んでも私の体は煙にいぶされて薫製になりそうだった。私たちは「そろそろドルチェが寝る時間だから」と温かい一家に感謝をして引き上げていった。帰り道は視界がさえぎられるほどの煙だった。オアフ島の上空は紫だった。

それは大変貴重な経験だったが、なぜか次の年からは2度と誘われなかった。やはり「きれいね!」というあの賛辞には無理な響きがあったのかもしれない。仕方がない。

今年も「旧年と新年への挨拶の叫び」は空を通して街中に響いた。2003年を迎えた深夜のオアフ島は風がなく「煙の街」と化し、私はいつもと変わらない朝が来るのをじっと待った。

元旦にはお雑煮を作る。ハワイで生まれ育った日系の知人も「元旦はおばあちゃんの家にゾーニを食べに行く」と言う。「おせち料理」を知らない人でも「ゾーニ」はお正月のお祝いとして多くの家庭で習慣になっているようだ。

そんなお祝いの集まりでも、ハワイの人は普段着に「ゾーリ」をはいて気楽に出かけるのである。そのゾーリはハワイのゾーリで、日本の着物を着る時の「草履」ではない。今や、私のお正月も「素足にゾーリ」になった。しかし、せめてお正月には奇麗に和服を着て、草履を履きたい!。

2003年元旦。ホノルルの煙は一掃され、雲ひとつない真っ青な空が戻っていた。そして私は、心も装いも改まらないままに、新たな年に突入した……。

(毎日新聞USA連載)


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