Violin弾きのお美っちゃん~11

大らかなる離婚後……

ハワイ島で小学校の先生をしている友人のミッシェルがホノルルに出てきたので、私たちはコーヒーショップでおしゃべりをした。私は減量ダイエットに成功して気が緩んでいるところだったので、この機会に甘いケーキを注文し、それにアイスティーもうんと甘くして飲むことにした。

この前ホノルルで会ったのは確か3カ月くらい前だった。きょうは洋服のせいかもしれないが、ずいぶんふくよかになったような気がしたので聞いた。

「ミッシェル、太ったんじゃない?」
「わかる?おいしいものをいっぱい食べたのよ」
「どこで?いつ?何食べたの?」

彼女はケーキを口にポイッと入れて言った。
「別れた夫と新しい奥さんが3日間カリフォルニアに行ったから、留守中子どもたちの世話を頼まれたのよ」

「どこで?」
「私が離婚するまで住んでいたうちよ」
「ふうーん」

私もケーキを口にポイッと放り込んでうなづいた。ミッシェルが話を続けた。

「それがね、新しい奥さんお料理がすごく上手で、留守中に私が何もしなくてもいいように、3日分の食事をいっぱい作っておいてくれたのよ。それがすごく美味しくてね!全部食べたのよ」

ミッシェルの前夫は離婚してから、恋をしていた2人の子どもを持つ女性と再婚した。ミッシェルと前夫の間にはひとり息子があり、今は息子と2人で暮らしている。息子は、ミッシェルと前夫の家を行ったり来たりしていることもあり、子どもたちの面倒を頼まれたのだったが、実際のところ、おいしいお料理を食べて、子どもたちとのんびり過ごしたらしい。

「子どもは手がかからないし、それに勝手知ったる元わが家だし、お料理や掃除もしなくてよかったからバケーション気分だったわ!」

ミッシェルはホットチョコレートを飲み、ほっと一息ついて言った。

「私が結婚していた時と違って家の中はきちんと片付いてたのよ。同じ家だとは思えなかったわねえ!」。

心底、前夫の新しい奥さんに感心している様子だ。何というおおらかさなんだろうと、私はミッシェルに感心しながらも笑いころげたので、アイスティーをストローでうまく吸うことができなかった。

……私がコンサートでハワイ島に行った時、まだ前夫と離婚する以前のミッシェル夫妻の家には何度も泊めてもらった。その時は夫婦仲は普通に見えたのだが、そういえば家の中はゲストルーム以外はちらかっていたような気がする……。

ミッシェルはケーキを急いで呑みこんでから続けた。

「でも家の間取りや、どこの部屋に何があるか全部知ってるから変な気持ちがしたのよ。だからリビングルームと洗面所しか使わなかったの」

ミッシェルはカリフォルニアで生まれ育った。ハワイには夫の勤務に伴って来ていた。

「近く、みんなでカリフォルニアに引っ越すかもしれない……」

そのみんなとは、ミッシェルと、前夫と、新しい奥さん、それに子ども3人ということらしい。カリフォルニアに引っ越しても息子が行ったり来たりできるように、お互い、近くに家を探すそうだ。

「これからのことを考えるとストレスなのよ……」とひとつため息をついてから、目をクルクルッといたずらっぽく回しながら、別れ際にミッシェルは言った。

「今度会う時は、何か驚かせる話をするからね、ミチコ」
「うんうん。どんな?」
「二十歳の若い恋人ができたとかね!」
「わかった!」

離婚話を種にして、こんなに大笑いしたのははじめてだった。それにしても、せっかく数か月ぶりにケーキを食べたというのに、ミッシェルの話があまりにおかしくて笑いすぎたので、私はケーキの味をゆっくりと味わうことができなかった。

それが残念だった……。

 (毎日新聞USA連載)

 

This entry was posted in Story - FiddlerMi 1. Bookmark the permalink.

Leave a comment