お日様と私と……

黒い素材が最も紫外線を通しにくいという情報を日本のテレビ番組で知った。それも、麻のような布目の荒いものよりも、網目の細かいナイロンがよいということだ。私は、さっそく大きい黒い傘を見つけて買ってきた。
ホノルルは貿易風が吹くので無風状態は滅多にない。そのかわり車道を横断する途中で突風の風のいたずらに悩まされる瞬間がある。風は思いもよらない時に、思いもよらない方向から吹いてくる。
マリリンモンローのようにならない為にも、スカートのデザインにはある程度の考慮は必要である、ということも失敗を重ねながら学んだ。
その日も、ホノルルでは他に誰もさしていない馬鹿でかい黒い傘をさして、自宅近くの横断歩道に立って信号待ちをしていた。よく晴れて風は心地よく、ほどよく吹いていた。そこに突然、強い風が黒い傘に気圧をはらんだ。
「アッ!」という間もなく、一瞬のうちに傘はひっくり返り「ぐにゃり」と曲がってしまった。傘の骨はいびつに折れ曲がり、びくともしなかった。そして、そこにはもう強い風は吹いていなかった。それ以来、傘はやめにした。
私は帽子好きである。日本からイタリア製のつばの広い茶色の帽子をハワイに持ってきていた。それは網目の細かいおしゃれな帽子で、お気に入りなのだが、ここハワイではふさわしくないと分かるのは簡単なことだった。
網目が細かく丁寧に編まれ、かつ、つばが広い帽子は風の抜け道がないので確実に飛ばされる。とにかく帽子が風に持っていかれないように両手でつばを押さえながら歩くのは、はなはだ効率が悪いし疲れるものである。
南国のハワイで、もし帽子好きが帽子をかぶるとすればそれなりの掟があるというものだ……と、そんな大げさなものではないが「ハワイの気候にふさわしい帽子に関する独断的研究」を少なからずすることになったのである。結論から言えば、ハワイではザクザクと荒く編んだものが適しているようである。
「風土にあったもの?これこそが文化を培うものなのか!と、変に感心しながら、日除けになり、暑さで蒸れないもの、それに風で飛ばされないもの、この3つの目的を果たす帽子は……と考えた。もうひとつ欲をいえば、やはりオシャレな要素もなくてはならない。
布のものならば、つばが狭く、頭にしっかりとくっついたものはたいてい大丈夫だ。実を言えば、布製でつばの広いものもかぶっていた。あごに細かいひもをつけて飛ばされないようにしていたのでその目的は達していたものの、広いつばは帽子をかぶっている間中ひっくり返っていたのだ。だからそれも不採用にした。
そこで私は考えた。網目の荒い帽子にリボンを付けてあごに結んだ。風は網目をすりぬけて通り、帽子はしっかりと私の頭にくっついているではないか。「しめた!これはいける」。
しかし難点がひとつあった。網目が荒いと日除けには不十分だった。それに、あごでひもを結んでいるのはおしゃれとはいえない。そこのところは現在、私の望むところではなかった。
次に、網目は荒いがやや深くかぶれて、帽子自体にやや重みのあるものを選んだ。これはよかった。顔を包むようにして陰になっているし、風の抜け道もあり飛ばされない。
このことを発見して以来、私はこのタイプの帽子を毎日愛用している。しかし、ハワイに住んでいる人はあまり帽子をかぶっていないようだ。肌が太陽で痛めつけられるのに……と思った。
私が利用している銀行の受け付け係の女性はサーフィン好きである。「そんなに太陽に皮膚をさらしてると肌がゴワゴワになるわよ」というのだが、きれいな肌を保つことよりも海のスポーツの魅力に取りつかれている。それもうなずけることだ。
「歳をとったら整形手術するわよ!」と彼女は言う。自然界の恵みを楽しみ、かつ、自身の「自然」に修正を加えることで、心身のバランスをとっているということだろう。そんな彼女たちは逞しいと思った……
(毎日新聞USA連載)
