Violin弾きのお美っちゃん~4

ホノルル・長屋暮らし……

私はホノルル市中心部で、交通量の多い通りに面した長屋に住んでいる。この長屋は築40年以上になるらしいが、うまく造られている。安普請には違いないが、地元の人の暮らしにそくしているとでもいえようか。

10数年間のホノルル暮らしで何度か引っ越したが、ずっと高いビルディングだった。そうしたビルと比較しても、今、私の住む長屋は、建物の向きが微妙にうまく計算されて建てられているようだ。ぎりぎりのあやういところで、太陽の光が部屋の中を直撃しないようになっている。たいしたもんだと思う。

また、すき間風はほどよく部屋の温度と湿度を保っていて、私のヴァイオリンは湿気を含んだり乾燥しすぎることがない。

ある時、この長屋の住人が少しばかりカッコイイ車を手に入れた。亡くなった義父の遺品だといった。修理をし、そして入念に磨いた。その義父という人は映画俳優だった。ハワイを舞台にした空手アクション映画では、主役と対決する悪役俳優として有名だった。彼の映画は私も見たことがある。

そんな人物だったので、少しばかり派手な車に乗っていても不思議はなかった。ある日、その車にセールの紙が貼られた。しかし、買い手が現われなかったので、そのうちにセールのはり紙は車の窓からとりはずされた。今ではその車は、長屋のごみ置き場横の駐車場で雨ざらしになり、塗装がはげ落ちている。海が近いからさびの進み具合も速い。

この住人の次の興味はオートバイに移った。日曜日には車体を磨き、部品の手入れに余念がなかった。オートバイの調子を試すために何度も何度もエンジンをふかした。長屋の住人は、その排気ガスも共有させられ、時に息苦しかった。最近はそのオートバイも見かけない。

日曜日の午後。長屋がやけに静かになり、今度は私の弾くヴァイオリンの音が長屋中に鳴り響く。気がひける。しかし一度も苦情の声を聞いたことがない。本当は、長屋には三味線の方が似合うのかもしれないが、ここハワイの長屋には、ヴァイオリン弾きが住んでいる。

「あら、しばらく見かけなかったね。どこかに行ってたの?」 「いや、しばらくぶりじゃないよ。毎晩、ごみ置き場にゴミをもって行ってるだろう。知ってるよ!」

私は気づかなくても、住人らはちゃんと知っている。ストーカーではない。愛すべき長屋ゆえの、自然な成り行きの会話である。

この長屋では、何事か暴力的な気配があると、誰かがすぐに警察へ通報する、といった伝統がある。どこかの部屋から夫婦喧嘩か何かで大きな声が聞こえてくると、まもなくしてからサイレンを鳴らしたおまわりさんがやってくるのだ。

騒ぎはすぐさまおさまり、長屋は平和を取り戻す。そして長屋の気楽な住人は、ダイヤモンドヘッド沖でつってきたと言っては、大きな魚を見せびらかしに出てくるのである。

だが、その魚をもらったことは一度もない。

(毎日新聞USA連載)

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